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多様性社会を生きるのにまず理解すべきは、「違い」より「同じ」

【「心のバリアフリー」が重要だけど】

162の国・地域・難民選手団が参加し、
障害を持つ約4,400人のアスリートが競った
夏季パラリンピック東京大会が閉幕しました。

日本は、前回リオデジャネイロ大会のメダル24個
(金0、銀10、銅14)を大きく上回る51個
(金13、銀15、銅23)のメダルを獲得しました。

個人的には、日本パラリンピック史上最年少(14歳)の
メダリストとなった競泳・山田美幸選手が一番印象に残っています。
両腕がなく、両脚の長さも違う体を活かした泳ぎに加え、
明るいキャラクターとしっかりした受け答えに惹かれます。
将来は外交官になりたいそうで、
地元の英語スピーチコンテストに出場するなど、英語も好きとか
なんとも頼もしい限りです。

それから、金メダル獲得最年長(50歳)記録となった
自転車・杉浦佳子選手の、「最年少記録は二度と作れないけど、
最年長記録はまた作れる」は、今大会屈指の名言かと。

メダル獲得こそならなかったものの、
自己ベストを更新した選手もすばらしい。

コロナ禍でいろいろな制限があったはずなのに、
選手たちの活躍にはただただ拍手です。

昨夜(9/8)放送された『クローズアップ現代+
目指せ!世界標準のバリアフリー 東京2020大会の先へ』では、
東京パラリンピックを機に、ハード・ソフト両面でバリアフリー化が
進んでいることが取り上げられていました。

例えば新しく建設された国立競技場。
設計の段階から、身体障害や、知的障害、発達障害、高齢者、子育て支援など
14の団体が参加し、世界最高のユニバーサルデザインが目指されました。

入口から競技場内への通路は段差のないスムーズなアプローチになっていて、
車いす用観客席は日本最大規模の500席あり、前の人が立ち上がっても
視界が遮られないよう、あらかじめ高低差がつけられています。
さらに、性的マイノリティに配慮したオールジェンダートイレや、
発達障害がある人専用のカームダウン・クールダウン室
(音が遮断された部屋で気持ちを落ち着かせる)等々、
多様な立場の意見を反映させる「インクルーシブデザイン」が
取り入れられています。

番組では、国立競技場の他にも、駅でのバリアフリー化や、
点字ブロックに埋め込んだQRコードが道案内をしてくれるアプリなど、
ハード・ソフト両面での取り組みが紹介されていました。

東京パラリンピックで進んださまざまなバリアフリー志向。
これを一過性のものにせず、共生社会を築いていくためには、
ハード・ソフト両面の整備もさることながら、
「心のバリアフリー」が重要であることは、
いろいろなところで言われています。
障害者や高齢者、幼児を連れた人たちが何を求めているのか、
そこに心を配ることなくして共生社会は成り立ちません。

ただ――。
自分とは違う他者を理解し、受け入れるのは大変なのも事実。
理念と感情の葛藤に悩んでいる人も少なくないでしょう。

この点で、ぜひご紹介したい話があります。
他者を理解するための大きなヒントになるかもしれません。

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【「神様が与えてくれたすばらしい共通点」】

昔読んだ、田口ランディ『もう消費すら快楽じゃない彼女へ』という本に、
自分が相手のためになっているのかと苦悩する介護者の話が出てきます。
相手の苦痛を理解しようとする試みをやめ、日常の介護の中で、
「なにが気持ちいいか」だけを考えるようになって、
「奇妙な罪悪感」から解放された、という話です。

――腹が立つのは立たないよりずっと楽だ。
感情を抑えると介護は地獄だった。

私はずいぶん多くの障害者と会ったけど、
いまだに彼らの苦痛はわからない。
わからないと言う時、ためらう。
わからないと言い切っていいのかと。
でもわからない。
わからないと言った時に微弱電流のように走る心の痛み。
このささやかな痛みだけが、私の感じる心の痛み。
彼女がどんなに苦痛に喘いでも、私の身体は痛まない。

でも、体のどこを拭いてもらうと気持ちいいかは知っている。
手がべとべとに汚れた時、どこを拭いてもらうと
「きれいになった気分」になるかわかる。
私が気持ちいいことは、彼女も気持ちいいらしい。
この神様が与えてくれたすばらしい共通点。

「違い」を理解するために自分を痛めつける。
それには限界がある。
でも「心地よさ」を知ることは苦痛じゃない。
それはただ、自分らしくあればいいだけだから。

「気持ちいいこと」を知ることは、
あなたと私が「同じ喜びをもてる」という可能性につながる。
そして、その先に「違い」がある。
最初から「違い」を理解しようとすると、
「わからない」という迷路に迷い込んでしまうのだ。――

「違い」より「同じ」ところの理解から入る。
これは何も、介護に限った話ではありません。

オリンピックやパラリンピックをはじめ、
さまざまなスポーツを通して自然に心が揺すぶられるのは、
最大限の努力や工夫で競技に臨む姿勢が、
また、そこに至るまでの過程が、
「気持ちいいこと」として万国共通だからだと思います。
それには、障害者も健常者も関係ありません。
スポーツが「世界最高の共通語」と言われる所以でしょう。

「違い」ばかりを際立たせていては、
遅かれ早かれそのうち行き詰まってしまい、
その先に待っているのは断絶しかないように思えます。

共感できる「同じ」ところもあるというアプローチは、
共生社会、多様性社会を生きるうえで、
簡単なようで見落としがちな、
とても大切な心構えではないでしょうか。

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