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「鬼滅の刃」大ヒットはコロナ禍“にもかかわらず”ではなく“だからこそ”?

【破格の大ヒット】

社会現象ともなった「鬼滅の刃」。
全く見ていないという人でも、名前ぐらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。

3月3日、作者の吾峠呼世晴さんが2020年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を贈られました。
文化庁のホームページに掲載された贈賞理由は、
――破格の単行本売り上げや映画の興行収入新記録を達成した「鬼滅の刃」。
愚直なまでに優しい主人公と献身的な仲間たちが理不尽な絶望を乗り越える姿は,
困難な現今(げんこん)に生きる人々の心を燃やした。
「週刊少年ジャンプ」のモットー「友情・努力・勝利」を体現し,
マンガとアニメを軸に社会現象と化した本作は,
メディア芸術分野の歴史にふさわしい厚みと現在性を兼ね備えている。
誰よりも次回作が待望される吾峠呼世晴氏に,敬意と激励を込めて贈賞する。――

これって、文化庁の職員さんが考えた文章でしょうか?
「鬼滅の刃」屈指の名セリフを踏襲した「~人々の心を燃やした」といったあたり、
なかなかのファン度とお見受けしました(^^)

さらに3月6日、アニメ版「鬼滅の刃」が“声優界のアカデミー賞”とも言われる、
第15回声優アワードで特別栄誉賞を受賞しました。
原作が持っている力はもちろん、声優陣の大熱演(+美しいアニメーション)も、
大きな魅力になっていることは間違いありません。

昨年10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は今でも上映されていて、
3月8日に発表された最新の興行収入(興行通信社調べ)は384億円、
観客動員数は2,787万人となっていて、歴代1位の記録を更新し続けています。
何度も見に行くリピーターも少なくないようで、
ストーリーやシーンは頭に入っているのに、それでも見たくなるのは、
優れた作品に共通する特長ですね。

「鬼滅の刃」の凄まじいまでの人気を示す調査結果もあって、
昨年12月に公表されたベネッセホールディングスによる、
「小学生が選ぶ!2020年 あこがれの人」(*1)では、
「鬼滅」から実に7人もトップ10に入っています。

1位 竈門炭治郎(「鬼滅の刃」)
2位 お母さん
3位 胡蝶しのぶ(「鬼滅の刃」)
4位 先生
5位 お父さん
6位 冨岡義勇(「鬼滅の刃」)
7位 竈門禰豆子(「鬼滅の刃」)
8位 煉獄杏寿郎(「鬼滅の刃」)
9位 我妻善逸(「鬼滅の刃」)
10位 時透無一郎(「鬼滅の刃」)

ここまでくると、「お母さん」「先生」「お父さん」を挙げた子どもが、
逆になんだか愛おしく思えるのは私だけでしょうか(^^;

(*1)「進研ゼミ小学講座」の小学3~6年生7661人(女子5170人、男子2491人)を対象に、2020年11月20~23日に実施。

「鬼滅の刃」のいわゆる聖地のひとつ、福岡県太宰府市の宝満宮竈門神社[ほうまんぐうかまどじんじゃ]。「鬼滅」のキャラクターが描かれた絵馬がたくさん奉納されています

「鬼滅の刃」のいわゆる聖地のひとつ、福岡県太宰府市の宝満宮竈門神社[ほうまんぐうかまどじんじゃ]。いろいろな「鬼滅」のキャラクターが描かれた絵馬がたくさん奉納されています

【「鬼滅の刃」は新しい神話か】

ハマっているのは子どもたちばかりではなく、
少なからぬ大人にも浸透しています。

秀でたコンテンツには、多様な解釈を誘起する深さや奥行きがあります。
ご多分に漏れず「鬼滅の刃」にも、さまざまな関連グッズの他にも、
いろんな“研究本”が出版されています。
著者の主張にどれほど納得するかは別にして、
「そんな見方もできるのか」と発見があるのは楽しいものです。

今回はそんな中の1冊、先月刊行された一条真也さん(*2)の
『「鬼滅の刃」に学ぶ』をご紹介します。

なぜこの本なのか。
「鬼滅の刃」の大ヒットを、「コロナ禍であるにもかかわらず、ではなく、
コロナ禍だからこそ」と言っているところが気になったからです。

一条さんは、「鬼滅の刃」が多くの人の心の琴線に触れた理由を、
神道、儒教、仏教の側面から、具体的な場面に即して分析してみせます。
個人的には、とても興味深く読みました。
以下は、そのエッセンスと思うくだりです。

――神道からは神についての観念、ヒノカミ神楽、
死後は故郷に帰り転生するという魂のあり方、
世代を超えて受け継がれる使命の力など、
物語の基層的な面に見出すことができます。
対して儒教・仏教は、登場人物たちを通して八徳を有した生き方、
あるいは知足・因果応報・怨親平等など、人間の目指すべき姿に関して、
主として肯定的なものを鬼殺隊が、否定的な面を鬼側が担う構図として
描かれているように思われます。――

そして一条さんは、「鬼滅の刃」を
「これまでに神話や説話物語が伝えてきた、
死と生が持つ意味や、どう生きるべきか。
死してなお命には続きがあることを
現代の感性で真正面から描ききった本作は、
本当に素晴らしい作品」と高く評価した上で、
コロナ禍で夏祭りや盆踊りが中止になり、葬儀も制限を受けるなど、
まともに死者を供養できない状況の中、
『死者を想う気持ちが、社会現象にまで発展した
「鬼滅の刃」の大ブームに結びついたのではないか』と指摘します。

基本的に自分のことしか見えていない鬼は、
自分だけしかないゆえに、死んでしまえば何も残りませんが、
自分以外のために行動できる人間は、
“私”だけでなく“私たち”になれる人間は、
他人への思いやりが巡り巡って自分にも返ってきたりして、
たとえ自分がいなくなってもなお、想いは残っていく……

コロナ禍が続く今、そして東日本大震災から10年を迎える今、
「鬼滅の刃」のような作品が大ヒットすることに、
崇高な意義を見出したい私でした。

(*2)北九州市小倉生まれ。小倉に本部がある冠婚葬祭業の株式会社サンレー代表取締役社長。
本名は佐久間庸和[さくまつねかず]。全国冠婚葬祭互助会連盟(全互連)前会長。
一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)副会長。
上智大学グリーフケア研究所客員教授。九州国際大学客員教授。

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