【安易に整合性を図らない】
Eテレで放送されている『100分de名著』という番組をご存知ですか?
原則毎月1冊、いわゆる名著とされる本を取り上げて、
読みどころや書かれた背景などを解説してくれる番組です。
毎週月曜日夜10時25分から放送で
(水曜日朝5時半からと同昼12時から再放送)、
1回25分、月に4回で100分というわけですね。
そこで今月取り上げられているのが、デフォー『ペストの記憶』。
5/16付本欄(「もうひとつの『ペスト』が問いかけるもの」)でもご紹介した作品です。
(私が読んだのは、平井正穂訳の『ペスト』(中公文庫)です)
1665年(日本では江戸時代、第4代将軍徳川家綱の頃)に
ロンドンで大流行したペストの話で、
人々の言動が今のコロナ禍を思わせるところが多々あり、
「人間は変わらんなあ」と“月並みに”思った私ですが、
番組(9/7放送の第1回)では、
指南役の武田将明先生(英文学者・東京大学准教授)が
さらに深い視点を示してくれました。
中でも、語り手(H.F)の意見がしばしば矛盾していることに対する見方は、
「そうか!」と響くものがありました。
正解がわからない状況下で、揺れるところをちゃんと書いていることが、
今読んでもおもしろい、というのです。
もしH.Fが、例えば自分は神の意志に沿っていると確信があり、
言動が一貫していたとしたら、おもしろくない。
うまく説明できないことを、うまく説明できないまま語る。
安易に整合性を図らずありのまま描いている点が優れている、と武田先生。
それを受けて出演者のタレント、伊集院光さんが語った言葉がまた、
グサッ!と私に刺さりました。
――コロナ禍が何カ月も経って思うのは、
正直に揺れたと国のトップの人たちに言ってほしかった。
わからないことがいっぱいあって、
こうしてみたけど結果的に違った、
でもそのときはわからなかったんです、といった揺れを
なかったことにされるのが、
僕の中でちょっとした不信感につながっている気がする――
うーん、そうなんだよなあ。
揺れたなら揺れたと正直に明かすことは、
8/18付本欄(「“弱さ”を隠さないのが“強さ”」)でも触れた、
共感できるリーダーに共通する“弱さ”
というものにも通じるんじゃないかと思います。
明後日(9/14)に行われる自民党総裁選で、
新しい日本のリーダーが誰になるか決まる見込みです。
誰であろうと、“弱さ”をごまかすようなことはしない、
共感できる政権であってほしいと切に思います。