【アプリも地元で】
前回、高専卒の原発運転員が活躍する小説
黒木亮『ザ・原発所長』を取り上げました。
今回は、やはり高専卒のIT企業創業者、渋谷修太さんの発言を紹介します。
(2020.6.10日経モーニングプラスFT)
というのは、これからの時代の教育と社会のあり方の、
一つの正解を提示していると思えるからです。
渋谷さんは、2009年に長岡工業高等専門学校(長岡高専)を卒業、
2011年に筑波大学を卒業し、スマホアプリの利用状況を分析する
事業を主に手がけるフラーを創業しました。
2016年には米経済誌フォーブスの30歳未満の重要人物「30under30」に選ばれています。
2020年10月、フラーの代表取締役会長になり、
同じ月に、長岡高専客員教授に就任しました。
渋谷さんは現在、故郷の新潟で暮らしています。
千葉(本社)、東京、新潟にオフィスがありましたが、
コロナ禍でテレワークが普及し、どこにいても生活できると実感し、
それなら大好きな故郷である新潟で、と決断したそうです。
個人・会社ともに、何かとコストが高い都心から地方に拠点を移す動きは、
コロナ禍で加速したトレンドの一つですね。
その渋谷さんが提唱するのは、「ソフトウエアの地産地消」。
ソフトウエアやインターネットのサービスは、
基本的にどこにいてもつくることができます。
例えば、フラーが開発しているアプリに、地元の長岡花火公式アプリや、
同じく地元のアウトドア総合メーカー「スノーピーク」の公式アプリがありますが、
どちらも新潟県民にとっては小さい頃から知っていて思い入れが深いもの。
それらに関するものは、知らない東京の人がつくるより地元の人間がつくったほうが、
モチベーションも高く、いいものがつくれるという意味で、
ソフトウエアも地産地消がいい、というのが渋谷さんの考えです。
渋谷さんは言います。
「自分のやっていることが、ダイレクトに地域・故郷に影響していって、
喜ばれるのが一番の価値だと思っています。
一方で、地元に戻るというと、何かをあきらめて……といったような
ネガティブな印象があったりしますが、それを変えていきたいと思っていて、
20代で経験を積んだ若い人が、若いうちに地元に帰って、
仕事で還元していくのがいいのではないかと思っています。
あとは、東京だと競争相手が多いですが、
地方は競争相手が少ない未開拓の市場という面もあります」
【高専生の強み】
さらに、渋谷さんが一つのテーマとして挙げるのが、「地方と高専」。
高専は全国各地にあります。
そしてその地方には、地方なりの諸課題(利便性の低さなど)があります。
それを、テクノロジーを活用できる高専生が解決していくというのは、
マッチングとしてすごくいい、と渋谷さん。
現に渋谷さんの母校の長岡高専とは、起業当時から交流しているそうです。
渋谷さんは、自身の経験も踏まえて、高専生に感じる可能性を次のように語ります。
「例えば、一般的な大学生なら、20歳を過ぎてから本格的に
プログラミングを学び始めますが、高専生の場合は、15歳、
中学を卒業してからすぐにプログラミングを5年間学びます。
スタートが早いのが大きな特徴です。
僕自身もそうですが、高専生は純粋に技術に対して興味があります。
例えば、ゲームがつくりたいと思って高専に入ってくるような子も多い。
好奇心が強く、好きで取り組めているので、目的意識やモチベーションが高いのです」
実際、フラーは全社員の約4割が高専出身とのこと。
なんとも意義深い話だと感じました。
もちろん高専生に限ったことではありません。
間もなく新年度を迎える生徒・学生・社会人のみなさん、
「好き」「目的意識」「モチベーション」は、
何につけ(当然英語も)身につける・成し遂げる際の強力な原動力です。
漠然と日々を過ごしてしまわないためにも、常に意識しておきたいものですね。