【インバウンド蒸発】
5/20、日本政府観光局(JNTO)から発表された
4月の訪日外客数(推計値)は、前年同月比99.9%減の2,900人でした。
ちなみに3月は同93.0%減の19万3,700人、
2月は同58.3%減の108万5,147人、
1月は同1.1%減の266万1,022人でした。
新型コロナウイルスのパンデミックで、世界中で人の動きが制限され、
日本でも検疫強化、ビザの無効化等の措置が講じられている状況下では、
当たり前と言えば当たり前の数字です。
問題は、いつになるかはわかりませんが、
いつかはやってくるであろうコロナ収束の後。
失われたインバウンドをどうするかですね。
今回の要因はあくまでも新型の感染症であって、
日本自体の魅力が失われたわけではないでしょうから、
それほど悲観することはないのかもしれません。
ただ、それでも気になる点を2つ挙げたいと思います。
1点目は、本欄2/13付「20年に訪日客4000万人は無理?新型肺炎だけでない課題」
でも取り上げた、近隣地域(中国、韓国、台湾、香港)への依存度の高さです。
その4地域で、2019年は約7割を占めます。
もちろん、そのこと自体が悪いというわけではありませんが、
近隣からの旅行者は滞在が短期間で、消費額も低い傾向が強く、
今後は欧米、オーストラリアなど遠方からの長期滞在客の開拓が必要とされています。
【日本は感染症対策が弱点?】
2点目、そして個人的にはこちらのほうがより重要かなと思っているのが、
感染症に対する日本の“姿勢”です。
というのは、「ワクチンで防げる感染症」の予防について、
日本の国際的評価は先進地域の中で最低レベルと位置づけられているのです。
例えば2013年6月、風疹の流行が続く日本に対し、米国疾病予防管理センター(CDC)は
渡航注意情報(3段階中真ん中のレベル2)を出しました。
続いてカナダ保健省も、日本への渡航者(主に妊婦)へ注意を呼びかけました。
≪いずれも、公衆衛生上の問題を抱えた発展途上地域並みの扱いで、
観光立国を目指す日本にとっては屈辱的だった。≫(石弘之『感染症の世界史』*1)
最近では2018年にも、風疹流行のため米CDCから渡航自粛が求められました。
さらに、池上彰+増田ユリヤ『感染症対人類の世界史』(*2)によれば、
日本では、繰り返し麻疹(はしか)も流行していて、
その都度ワクチン接種が呼びかけられているのに、なかなか浸透していない状況です。
昨年も麻疹が流行し、アメリカなどから日本への渡航自粛が呼びかけられました。
ジャーナリスト池上彰さんは、
≪「ワクチン接種は危険だ」などと主張する人や団体もあって、接種しない人がいます。
そういう人が他に感染を広げるのです。感染症に関しては、お互い様なんです。
もちろんウイルスや菌にもある種の地域性などがあって、
それにあわせて人間にも免疫がある、ないといった差異が生じる場合もあります。
しかし、基本的に感染症は人類全体にとっての敵なんです。≫と訴えています。
この流れで言うと、既存感染症ワクチンの低接種率に加え、
将来、新型コロナのワクチンができたとき、
もし世界に比べて日本の接種率が低く、まだ流行が収まっていないとしたら、
インバウンド復活に悪い影響を及ぼすのは避けられないでしょう。
まあ、心配しすぎかもしれませんし、そうであってほしいですけど。
さらに池上さん、次のように指摘しています。
《日本は島国ですから、水際対策でなんとかこれまでやってきました。
運良く、SARSもMERSも日本へは入ってきませんでした。
しかし観光立国のかけ声のもと、インバウンドを呼び込み、
以前に増して人の行き来が盛んになっている日本が、
これまでと同じような対策だけではいかないことは、
今回の新型コロナウイルスの感染拡大で明らかでしょう。》
世界有数とも称されるホスピタリティや治安のよさで定評がある日本。
でも感染症に関しては後れている……だとしたら、残念ですよね。
(*1) 2018年刊角川ソフィア文庫。2014年刊行の『感染症の世界史』を加筆修正
(*2) 2020年4月刊ポプラ新書